更年期障害・甲状腺
更年期障害・甲状腺
日本人の平均閉経年齢は50−52歳と言われています(個人差あり)。閉経前の5年間と閉経後の5年間とを併せた10年間程度を「更年期」といいます。
更年期に現れるさまざまな症状の中で他の病気に伴わないものを「更年期症状」といい、その中でも症状が重く日常生活に支障を来す状態を「更年期障害」と言います。
更年期障害は女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌が急激に低下することで起こります。
エストロゲンの分泌量が減少すると、今までエストロゲンによって調節されていた、からだのいろいろな機能がうまく働かなくなります。また、エストロゲンが低下すると脳は卵巣に対して、もっと女性ホルモンを出すようにシグナルを送ります。
しかしその際に、シグナルが周囲の脳に不要な興奮を起こしてしまうことで、自律神経の調節がうまくいかなくなります。つまり、女性ホルモンの急激な減少にからだがついていけず、神経の調節不良や心身の不調が起こりやすくなる状態になるのです。そのような状態は多かれ少なかれ生じますが、特に日常生活にまで影響を及ぼす場合を更年期障害とよび治療を必要としています。
まずは、現在困っている症状や月経の状況を問診で確認します。必要に応じて、血中ホルモン濃度や甲状腺機能を調べたり、治療前に貧血や肝腎機能をチェックします。
その他、骨密度検査で骨粗鬆症のスクリーニングを行います。現在の症状が他の疾患から起きているものではないと判断した場合、更年期障害と診断し、治療に移ります。
更年期障害は身体的因子・心理的因子・社会的因子が複雑に関与して発症しますので、まず十分な問診を行うことが必要です。その上で生活習慣の改善などのアドバイスを合わせて行います。
更年期障害の主な原因が女性ホルモン(エストロゲン)の減少にあるため、少なくなったホルモンを補うホルモン補充療法が有効です。更年期症状の改善だけでなく、将来の高コレステロール血症や動脈硬化、骨粗鬆症、認知症の予防や治療にも効果があります。
女性ホルモンには様々な投与方法や形状(飲み薬、貼り薬、塗り薬)があり、一人ひとりに合わせて薬を選択していきます。また、ホルモン補充療法を使用できない患者さんの場合には漢方薬を対症療法として必要な薬剤を処方いたします。
更年期障害の主な原因がエストロゲンのゆらぎと減少にあるため、少量のエストロゲンを補う治療法(ホルモン補充療法:HRT)が行われます。HRTは、ほてり・のぼせ・ホットフラッシュ・発汗など血管の拡張と放熱に関係する症状に特に有効ですが、その他の症状にも有効であることがわかっています。
エストロゲン単独では子宮内膜増殖症のリスクが上昇するため、子宮のある方には黄体ホルモンを併用します(エストロゲン・黄体ホルモン併用療法)。手術で子宮を摘出した方には、黄体ホルモンを併用する必要はありません(エストロゲン単独療法)。HRTに用いるホルモン剤には飲み薬、貼り薬、塗り薬などいくつかのタイプがあり、またその投与法もさまざまです。
よく話し合いながら、その人に合った最適な治療法を選択していきます。HRTに関しては、一時乳癌などのまれな副作用が強調される傾向にありました。しかし最近になって、更年期にHRTを開始した人では心臓・血管の病気や骨粗鬆症など老年期に起こる疾患が予防できるという利点が、再び見直され始めています。当院では、必要に応じて婦人科への紹介も積極的に検討しています。
漢方薬はさまざまな生薬の組み合わせで作られており、全体的な心と体のバランスの乱れを回復させる働きを持ちます。多彩な症状を訴える更年期女性に対しては、「婦人科三大処方」とも呼ばれる当帰芍薬散・加味逍遥散・桂枝茯苓丸を中心に、さまざまな処方が用いられます。
比較的体力が低下しており、冷え症で貧血傾向がある方に対しては当帰芍薬散を、比較的体質虚弱で疲労しやすく、不安・不眠などの精神症状を訴える方に対しては加味逍遥散を、体力中等度以上でのぼせ傾向にあり、下腹部に抵抗・圧痛を訴える方に対しては桂枝茯苓丸を、それぞれ処方します。
気分の落ち込み・意欲の低下・イライラ・情緒不安定・不眠などの精神症状が最もつらい症状である場合には、抗うつ薬・抗不安薬・催眠鎮静薬などの向精神薬も用いられます。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの新規抗うつ薬は副作用も少なく、またほてり・発汗など血管の拡張と放熱に関係する症状にも有効であることが知られています。症状によっては、精神科・心療内科への受診をお勧めすることもあります。
甲状腺疾患として多いものが、バセドウ病、橋本病、甲状腺腫瘍となります。
バセドウ病と橋本病はいずれも自分の体内でつくられる抗体という物質が、自分の甲状腺に影響を与えるために、「自己免疫性甲状腺疾患」と分類されます。甲状腺腫瘍は小さい場合でも、健康診断などでの画像検査の増加で偶然みつかることが多くなってきました。
甲状腺腫瘍には腫瘍様病変、良性腫瘍そして悪性腫瘍があります。健康診断などの肺のCT検査で甲状腺が写りこんで、偶然に甲状腺腫瘍が見つかることが増えてきました。最も多く見つかるものが腫瘍様病変の腺腫様甲状腺腫というものです。良性腫瘍としては濾胞腺腫、そして悪性腫瘍としては乳頭癌、濾胞癌、未分化癌、髄様癌、悪性リンパ腫などが挙げられます。
このような症状があれば、早めに検査をして甲状腺の腫瘍があるのか、腫瘍があれば、どのような腫瘍なのかを調べる必要があります。悪性の場合や、良悪はっきりしない場合には手術が行われます。
採血検査
1. まず採血検査を行います。甲状腺腫瘍に特有の腫瘍マーカーや甲状腺ホルモンに変化がないかを調べます。
超音波検査
次に超音波検査を行います。甲状腺腫瘍の大きさや性状、個数などを調べます。必要があれば専門機関に紹介をして腫瘍に針を刺して細胞を採取して良性か悪性かを詳しく調べる検査を行います。
少しずつこのような症状を自覚した場合は早めに検査をしてバセドウ病かどうかを調べる必要があります。長く我慢していると心臓に負担がかかり、心不全という重大な病気につながることがあります。
採血
まず採血をして甲状腺ホルモン、下垂体からの甲状腺刺激ホルモン、そして甲状腺を刺激するTRAbという抗体の値を調べます。
超音波検査
次に甲状腺の超音波検査を行います。甲状腺が腫れているか、甲状腺の中の血液の流れ方が増えているかどうか調べます。
治療には薬物治療、アイソトープ治療(放射線治療の一種)、甲状腺を切除する手術の3つがあります。まず内服薬で治療を開始することが多いです。薬物治療で改善が難しい場合、薬物治療の副作用があるなどの場合、専門の大学病院などでアイソトープ治療や手術が行われます。
薬物治療には内服薬である抗甲状腺薬をまず使用します。副作用が比較的起こりやすい薬であるため、最初の3ヶ月程度は2~3週間おきに採血をして副作用がないかを調べながら服薬してもらいます。このほか動悸を抑える薬や、いらいらを抑える薬も併用することがあります。
場合によっては無機ヨウ素という甲状腺ホルモンの合成、分泌を抑える薬も使います。薬物治療の場合は、よくなるまで6ヶ月から数年かかることがあります。
甲状腺機能低下症の代表的な原因の一つに橋本病があります。自己免疫の異常で慢性的な炎症が生じていることから慢性甲状腺炎とも呼ばれます。橋本病の多くの方は甲状腺ホルモンの過不足はありませんが、甲状腺細胞の破壊が続くと、甲状腺ホルモンの分泌が低下し、その不足が著しくなると全身の代謝が低下するため、寒がり、体重増加、体温低下、だるさ、便秘、脂質異常症、気分の落ち込みなどが出現します。また、女性ですと生理不順、不妊の原因や、胎児の発育不良にも関わることがあります。
甲状腺ホルモンが不足している場合にはホルモンの補充療法を行います。甲状腺機能が低下していない場合は定期的な経過観察を行います。
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